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ドラフト候補特集の罪

昨晩、プロ野球選手と夕食をともにしながら色々な話をし、

帰宅してから彼らの歩みを雑誌のバックナンバーなどで辿ってみました。

そうしながら、僕はあらためて深く反省したことがあります。

それは雑誌やムックの『ドラフト候補特集』についてです。

何度も書いていますが、僕はこの種の仕事をいただいた時、

選手の評価と欠点は絶対に書きません。

それとともに重視しているのが、その選手が指名される確率です。

例えば、他誌がどんなに高く評価していようと、社会人への内定を取った選手は候補から外します。

以前、どうしても誌面のスペースとピックアップした選手数が合わず、

編集部から「あとひとり」という要請を受け、僕の見立てだけでいいと感じた選手を

掲載したことがあります。結局、その選手は指名されずに社会人入りしましたが、

あとになって、そのチームの監督から、こんなことを聞かされました。

「うちが一番に声をかけたんだけど、プロのスカウトもちらほら来ていてね。

内定を出したのに辞退されるんじゃないかと思ってドキドキだったんだよ。

そうしたらある雑誌がドラフト候補って載せるものだから、やっぱりプロを目指したいと

言ってきてね。説得するのに大変だった。本当に余計なことを書いてくれるよね」

正直に僕だと打ち明けられませんでした。

そして、その選手が社会人で目立つ実績を残せぬまま消えた時、

一度は決意した社会人入りを考え直させてしまった僕の記事によって、

彼は常にプロへの思いを抱きながら悶々と社会人でプレーしたのではないか。

そう思うと胸が張り裂けそうでした。大袈裟かもしれませんが、これもメディアの暴力の一種でしょう。

僕らはその感覚が麻痺しているけど、インターネットが普及した時代になっても、

メディアが発信した情報を鵜呑みにする人はたくさんいる。火のない所に煙は立たないと信じている。

まさか、しっかりした調査もせず、ましてや人数合わせで掲載されたドラフト候補がいるなんて思わない。

日本中で売られている雑誌に名前と写真が載れば、「プロに入れる」と思ってしまう。

選手本人が冷静でも、監督、会社や学校の関係者、親や親戚、誰かが浮足立つ。そして、期待する。

だからこそ、僕のような大失敗をすると、

自分が候補に挙げたい選手について、慎重に調査取材をするしかありません。

こんな例もあります。僕は指名があるかないかかな、と感じていた選手。

監督にこっそり伺うと、「実は卒業できないことがほぼ確定しているから、社会人の内定が

取れない。何とか野球を続けさせてやりたいから、ひと肌脱いでくれるかな」

そういう事情なら、監督がスカウトに売り込むでしょうし、下位指名でも入団するから

指名される確率はグンと上がる。僕もひと肌脱いで候補リストに入れます。

野球をはじめとするスポーツ報道が事実を伝えている以上、

ドラフトに関しても確かな情報をキャッチし、裏づけのある記事を作らなければいけません。

ドラフトだけが「彼と彼女は付き合っているんじゃない?」というゴシップめいた内容ではいけないはずです。

だって、プロ野球を目指している若者の人生がかかっているのですから。

そういう視点で見ていくと、最近のドラフト関係の記事は、ちょっと正視できない内容になっています。

先日も、ある専門誌の特集を見ていたら、プロ志望届を出さないと決めている選手が何人か掲載されている。

まだ5月ですから、実力のある選手という判断で掲載しちゃうのかな、と見ていくと、

社会人入りが濃厚な選手はリストから外した、そうご丁寧に書いてある。

何だ、取材が甘いだけじゃないか。自分のことではありませんが、腹立たしくなってきます。

さらに、その不正確な情報でこれでもか、これでもかとドラフト候補特集を続けてくる。

「なぜ、ドラフト特集ばかりやるの?」と聞けば、

「売れるんですよ」と答えるでしょう。

「プロをはじめ、シーズン真っ盛りでネタはいくらでもあるのに、

もっと売れる企画を自分たちが考えられないだけでしょう」

さすがに、その言葉は飲み込むと思いますが……。

でも、ここまでエスカレートしてきたら、真剣に考えなければいけないでしょう。

ドラフト自体がある若者の人生を大きく左右するのだから、

その情報の出し方が紅白出場歌手の予想のような内容じゃいけないだろうと。

サクッとひとりの選手を掲載したことにより、悩む人がいたり、困る人がいたり、

勘違いさせてしまう人がいたり、現在の立場を失いそうになる人がいる場合がある。

落合博満さんにも、こう釘を刺されたことがあります。

「スポーツ報道は、人の生き死にに関わらないから何を書いてもいいなんて思うなよ。

スポーツ報道だって人を生かしも殺しもするんだから」

僕らは野球によって生計を立てている。

だから、野球を食い物にすることだけはダメなんだ。

読者が共感してくれる企画、感動してくれる記事はまだまだ作れる。

汗出して、涙も出して、知恵出して、編集部員同士で取っ組み合いになっても考えよう。



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2014-05-21 : プロ野球 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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Author:横尾弘一
野球ジャーナリストで著述業を
生業にしている横尾弘一です。
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